個人事業主や自営業者が個人再生すると事業にどう影響する?

個人再生

個人事業主や自営業者の方が債務整理する場合でも個人再生であれば、自己破産とは違い事業に必要な物を没収されない、契約等の解除をすることがないため、廃業を避けることができます。

ただし個人再生は借金総額5,000万円以下であること、返済できる見込みがある(安定した収入が見込めるか)など、利用に条件があります

個人再生の場合、自己破産のように借金は帳消しとなりませんが、借金の大幅な減額ができますし、持ち家などの財産を手放さずに済みます。また減額された借金を3~5年かけて返済していきますので、収入があると見込めれば個人再生を利用できます。

自己破産と違い、資格制限もないため、資格を要する職業の方でも影響しません。

事業継続を視野に入れたい、自己破産では都合が悪い方であれば、減額効果の大きい個人再生は選ぶべき債務整理と言えるでしょう。

このページでは個人事業主や自営業者の方が個人再生した時の事業に及ぼす影響を自己破産と比較しながらご説明いたします。

個人再生と自己破産における事業への影響とは

個人再生と自己破産ではどのように事業に影響するのか?一番の違いは事業に必要な資産や財産を差し押さえされるかどうか?です。

どのくらい借金があるのか?

自己破産では借金総額に上限はありませんが、個人再生では借金総額(再生債権額)が5,000万円以下でなければ利用できません(5,000万円要件と呼ばれています)。

5,000万円に含まれるもの
  • 金融機関他からの借り入れ
  • 取引先や仕入先間での買掛金
  • 従業員の賃金
  • リース債権等

個人再生は返済できる見込みがなければ利用できません。個人再生は借金が大幅に減額できるとはいえ、返済していかなければならないからです。

返済していける見込みがあるのか?安定した収入があることも利用条件に含まれます。しかし個人事業主や自営業者の場合、安定した収入があると判断されない可能性があります。

  • 毎月の収入が見込める取引先がある
  • 少なくとも3ヶ月に一度は決まった収入がある
  • 閑散期でも返済していけるだけの収入がある

等々、返済していけると見込める収入があると判断されなければ、個人再生は利用できません。

何かしら安定して収入があると見込めると裁判所に判断されれば、個人再生は利用できます(パートやアルバイトでも利用できる時はあります)

また個人事業主等が個人再生する場合、裁判所によっては提出物が増える場合もあります。

例えば、申立前6ヶ月間の「事業収支表」、申立後6ヶ月間の「収支予定表」の提出が必要となる場合もあります。

他にも申立書に事業内容について、事業の将来性についても記載しなければならないこともあります。

資産や財産における差し押さえの有無

個人再生において言えば、資産や財産を差し押さえされることがありません。

しかし自己破産の場合、事業に必要な物の差し押さえ他、店舗等の契約も解約されます。また取引先からの信頼を失う可能性もあるなど様々なデメリットが生じます。

自己破産はその他に持ち家も差し押さえされますし、売却査定した際に20万円以上の価値がある財産となる、

  • 高価な家具
  • 生命保険の解約返戻金
  • 不動産
  • 有価証券
  • 預貯金

さらには99万円以上の現金(手持ちの)などが差し押さえの対象となります。

自己破産でも自由財産といった差し押さえの対象にならない財産があり、生活に必要な財産は手元に残すことはできます。

とはいえ、事業に関連する資産、財産は基本、差し押さえの対象となるため、事業継続は難しくなります。

つまり、事業への影響を考えれば、個人再生を選択したほうが影響はでにくいと言えます。

資格制限を受けたくなければ個人再生

自己破産すると「資格制限」を受けます。資格制限を受けると特定の業種の方は業務にあたることができませんが、個人再生では資格制限は受けません。

資格が制限される業種でいえば、士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士等)、宅地建物取引主任者、マンション管理業務主任者、警備業、探偵業、さらには質屋や古物商といった業種も対象となります。

対象となる業種で支障をきたす方であれば、自己破産ではなく、個人再生を利用すべきでしょう。

新規で融資を受けられない、ローンは組めなくなる

個人再生、自己破産をすることで一定期間、新規で融資を受けられなくなります。ローンも組めなくなります。

これは信用情報機関に事故歴として5年~10年間、登録されるからです。

信用情報機関に事故歴として残っている間は一切、融資もローンも利用できません

またクレジットカードも同様に作ることもできませんし、利用中のクレジットカードも停止(解約)されます(クレジットカードが事業主の名義ではなく、家族名義の物は関係なく利用できます)。

クレジットカードで支払いしている方であれば、振込用紙等、他の支払い方法に切り替えなければなりません。

銀行のローンを利用している方であれば、個人再生、自己破産することで対象の銀行の預金口座も利用できなくなるため、注意が必要です

また決済がクレジットカードのみ対応のサービスを利用している方であれば、サービスの継続利用も難しくなります。

例えば、輸入販売をしている方であれば。海外から商品を購入する際はクレジットカード決済が殆どであるため、事業にも支障をきたす可能性が高くなります。

住居兼店舗の方でローンを支払い中の方でも個人再生なら手放さずに済む

住居(住宅)と店舗(事務所等含む)が一緒の場合でローンを支払い中の場合、自己破産は差し押さえの対象となりますが、個人再生であれば、「住宅ローン特例」を利用できるため、手放さずに済みます。

住宅ローン特例を利用できるかは、店舗の床面積が2分の1以下である場合です。

民事再生法 第196条 第1項

住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。

引用元:電子政府の総合窓口

もし店舗となる部分の床面積が2分の1以上超えるのであれば、住宅ローン特例は利用できないため、手放すこととなります。

個人再生も自己破産ともに費用はかかる

個人再生も自己破産も裁判所を通すため、裁判所に支払う費用が発生します。また手続きも複雑で専門性が高いため、弁護士や司法書士に依頼することになります。

弁護士や司法書士へ依頼せずとも行えますが現実的に手続きを行うのは非常に困難です

個人再生で住宅ローン特例を利用した場合、費用は高くなりますが、住宅ローンを支払い中であっても、住宅を手放さずに済みます。

個人再生は借金が大幅に減額されるとはいえ、借金は残ります。

つまり支払う費用を差し引いても個人再生を利用するメリットがなければ、個人再生を利用する意味がありません。

では個人再生における減額効果を見てみましょう。

借金(債務)総額減額後の借金総額(最低弁済額)
100万円未満の場合100万円(減額なし)
100万円以上500万円以下の場合100万円
500万円以上1,500万円以下の場合5分の1まで減額
1,500万円以上3,000万円以下の場合300万円まで減額
3,000万円以上5,000万円以下の場合10分の1まで減額

これは個人再生における減額基準であり、財産を持たない方であれば、上記表の通りに減額されます。

例えば、借金総額が500万円の方であれば5分の1である100万円まで借金は減額されますし、借金総額が100万円以下の方であれば、減額されることはありません。

もし借金総額が200万円の場合であれば100万円まで減額されますが、個人再生の費用で50万円支払った場合は実質、50万円しか減額されていなかったことになります。

つまり減額される金額が大きくなければ、個人再生を利用するメリットはないとも言えます。

処分できる財産がある人の場合

個人再生では自己破産のように財産は処分されませんが、清算価値保障原則に従い、処分できる財産がある(査定した際に20万円以上の売却価値がある物等)場合、その財産も加味して減額されます。

例えば500万円の借金がある方は100万円まで減額されるところ、処分できる財産(車や高級家具などを所有している)が200万円ある場合は100万円ではなく200万円までしか減額されません。

事業を継続しても収益の立て直しができる見込みがない場合であれば、返済が生じる個人再生を利用するよりも自己破産を選んだ方が生活再建できる可能性は高くなるでしょう。

個人事業主(自営業者)は小規模個人再生手続となる

個人事業主(自営業者)が個人再生する際は「小規模個人再生手続」で手続きを進めていきます。

小規模個人再生手続で提出する書類
  • 申立書
  • 収入一覧および主要財産一覧(陳述書・財産目録等)
  • 債権者一覧表
  • 委任状
  • 住民票
  • 確定申告書
  • 個人再生委員が支持する書類

申立書では申立人の住所や氏名、生年月日、そして小規模個人再生手続を行う旨を選択すると記載します。

陳述書には現在の職業、収入、職歴、家族の状況、同居の有無、なぜ個人再生をするのか事情を記載します。

財産目録には預貯金、保険、有価証券、自動車、不動産など申立人名義の財産を記載、また売却価値も記載します。

債権者一覧表では借り入れ先はどこか?借入額、借り入れした理由(原因)を記載します。

小規模個人再生手続の流れ
  1. 申し立て
  2. 審尋(個人再生委委員の選任)
  3. 再生手続開始決定(借金の調査、財産調査、個人再生委員への支払い)
  4. 再生計画案の提出
  5. 債権者の議決、債権者への意見聴取
  6. 再生計画案の認可(不認可)
  7. 再生計画案に基づいた返済スタート
小規模個人再生手続きが認められるには

小規模個人再生手続では再生計画案に対し貸し手側(債権者)の同意が半数以上、かつ債権額が2分の1を超えなければ、認められません。

例えば債権額が2分の1とは借金総額が1000万円の場合、個人再生に同意しない債権者の債権額が600万円であれば、2分の1を超えるため、個人再生は認められません(可決されません)。

再生計画案とは個人再生後の借金をどう返済していくのか?分割払い等を計画した案です

個人事業主(自営業者)が個人再生を成功させるには、

  • 確定申告を行っていること
  • 毎月の収支を把握していること
  • 申立書に記載する事業用資産、売掛金は漏れがないようにすること
  • 借り入れしている金額だけでなく買掛金の申告も忘れないようにすること

が必要です。

つまりは個人再生する上できちんと収支他、お金の流れを把握しており、事実のまま申告しなければならないということです。

依頼する弁護士等の指示に従い、申告漏れ等ないようにしましょう。

個人事業主(自営業者)における個人再生のメリット・デメリット

個人再生と自己破産を比較した内容も踏まえ、個人事業主(自営業者)における個人再生のメリット、デメリットをここで整理してみます。

メリット
  • 事業に必要な資産や財産を手放さずに済む
  • 借金は大幅に減額される
  • 借金が多い場合は減額効果に期待できる
  • ローンを支払い中でも住宅は手放さずに済む
  • ローンを支払い中の住居兼店舗の場合、床面積次第で手放さずに済む
  • 資格制限は受けない
  • 弁護士、司法書士に依頼すれば催促が止まる

個人再生最大のメリットは自己破産とは違い、財産等を没収(差し押さえ)されないため、自己破産よりも個人再生を選んだ方が事業継続できる可能性があります。

資格制限を受けると事業に差し支えがある方であれば、個人再生では制限を受けません。

自己破産であれば住宅はもちろん、住居兼店舗も差し押さえされますが、個人再生では住宅ローン特例を利用することで手放さずに済みます。

ただし住居兼店舗の場合は床面積が2分の1を超える場合は住宅ローン特例を利用できません。

デメリット
  • 5,000万円を超える借金がある方は利用できない
  • 借金は減額されるが残るため返済は必要
  • 減額された借金が返済できると見込まれる方しか利用できない
  • 借金総額が少ない方は減額効果が薄くなる
  • 高額な財産がある方は減額効果が薄くなる
  • 手続きが難しく、弁護士等への依頼が必要
  • 弁護士や司法書士の費用、また裁判所費用も必要となる
  • 一定期間、新規融資が受けられなくなる
  • 一定期間、ローンが組めなくなる
  • ローンで支払い中の物はローン会社に回収される
  • クレジットカードが利用できなくなる(作れなくなる)
  • 手続きが完了するまでに6ヶ月以上かかる
  • 官報に掲載される

個人再生は借金が減額されますが免除にならないため、返済していかなければなりません。返済は原則3年間(36回)、分割して返済していきますが、返済できるだけの収入がなければ利用できません。

減額され、支払額も下がることを考えると、個人再生にかかる費用も踏まえてもメリットが生まれないことは覚えておきましょう。

個人再生も自己破産も共通して一定期間は新規融資やローン、クレジットカードは利用できなくなります。

つまり資金調達は銀行等に依頼できなくなりますし、現金での購入、支払いとなります。もしくはデビットカードで支払いましょう。

まとめ

事業継続を考えるのであれば、個人再生を選ぶべきですが、借金は残ります。返済も生じるため、事業の立て直す目途が立っていない方であれば、自己破産を選ぶのも一つです。

ただし自己破産であると事業に関連する資産、財産の他、住宅、財産(売却した際に20万円以上の価値がある物)も手放さなければなりません。手放すことに支障がある場合は個人再生を利用するしかありません。

もし価値のある財産を所有している方であれば、個人再生における減額効果が薄くなります

個人再生は複雑な手続きが必要なため、費用はかかりますが弁護士、もしくは司法書士に依頼するのが無難です。費用で言えば裁判所へ支払う費用も必要であるため、個人再生に必要な費用は高額になります。

個人再生で減額される借金と必要な費用を照らし合わせ、結果的に減額される金額が多い時こそ、個人再生を利用するメリットが生まれると考えましょう。