債務者が債務整理をする最大の目的は、借金の額を減らしたり免除を受けたりすることで、返済の苦労から解放されることです。
この債務整理は複雑でさまざまなことへの対応が必要なことから、債務者自身が日常の仕事をしながら処理することはほぼ困難といえます。
したがって、弁護士や司法書士といった債務整理や法律の専門家に委任するのが一般的ですが、その際には専門家に対し、契約にもとづいた費用を支払わなければなりません。
しかし、債務整理を検討している債務者の中には「生活が苦しく費用が払えない」といった人が多いのが現実です。
ここでは、債務整理費用の相場とともに、費用を準備できない場合の対応策について紹介しましょう。
債務整理にはどの程度の費用がかかるのか
日弁連(日本弁護士連合会)では債務整理の弁護士報酬額の自由な設定を認めていることから、債務整理に必要な費用は事務所や弁護士によって異なります。
さらに、都道府県や所在地などによって金額は大きく異なっており、債務整理にどの程度の費用がかかるのかを一概に紹介することが困難です。
また、日弁連では債務整理の手続きごとの弁護士費用の上限額を定めていない上に、費用の上限額について公開している弁護士や事務所はほぼありません。
したがって、この記事においては、費用が下限額で示されていることに注意して読み進めてください。
債務整理に必要な費用と費目
債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類の手続きがあり、手続きによって費用や費目(使途で分けた費用の名目)に違いがあります。
債務整理費用は「弁護士費用」と「裁判所費用」の2種類ありますが、過払い金返還請求を行う場合は、その費用を弁護士費用の追加分として支払わなければなりません。
債務整理における手続きの種類ごとに必要な費用は、下表のとおりです。
債務整理 | 費用の種類 |
---|---|
任意整理 | 弁護士費用のみ |
個人再生 | 弁護士費用と裁判所費用 |
自己破産 | 弁護士費用と裁判所費用 |
なお、「過払い金返済請求」を行う場合は、返還金があった場合に、弁護士費用に加算される場合が多いです。
債務整理手続きの種類ごとの費目は、下表のとおりです。
債務整理 | 費目の種類 |
---|---|
任意整理 | 弁護士費用の費目(相談料・着手金・報酬金)の他に、「減額報酬金」が追加されることがある |
個人再生 | 弁護士費用の費目+裁判所費用の費目(個人再生委員報酬・予納金・収入印紙・切手代など) |
自己破産 | 弁護士費用の費目+裁判所費用の費目(予納金・収入印紙・切手代など) |
なお、「過払い金返済請求」の費目は、解決報酬金・過払金報酬金の費目名で弁護士費用に追加されます。
任意整理に必要な債務整理費用の相場
債務整理の任意整理は裁判所を介さないことから、裁判所費用は必要ありませんが、弁護士費用はかかります。
任意整理の弁護士費用のうち報酬金と減額報酬金については、日弁連の「債務整理事件処理の規律を定める規程」で上限が設定されています。
また、着手金と報酬金の金額はバランスを考慮して設定している弁護士事務所が多いことから、着手金と報酬金の合計で1社当たりいくら必要かに注意してください。
債務者自身で任意整理の手続きに取り組んでも、借金の減額に成功する可能性は低いのですが、弁護士への委任によって借金削減の成果を得られると言われています。
個人再生に必要な債務整理費用の相場
債務整理の個人再生は裁判所を介して行う手続きであることから、弁護士費用と裁判所費用の2種類の支払い義務を負います。
個人再生の手続きにおいては裁判所によって個人再生委員が選任されることから、その再生委員の報酬も支払わなければなりません。
また、個人再生の手続きにだけ認められている「住宅ローン特則」を利用する場合には、報酬金に違いがあります。
個人再生では、次表のような弁護士費用が必要です。
費目/支払いのタイミング | 費用の相場 |
---|---|
相談料/最初に相談する時 | 1時間以内無料~ |
着手金/正式に委任する時 | 30万円程度〜 |
報酬金/案件が成功した時 | ・住宅特則なし:20万円程度~ ・住宅特則あり:30万円程度~ |
上表の弁護士費用に加え、次表の裁判所費用が必要です。
費目 | 内容 | 費用の相場 |
---|---|---|
予納金 | 官報掲載料 | 約14,000円 |
収入印紙代 | 申立手数料 | 1万円 |
郵便切手代 | 呼出通知料など | 約3,000円 |
封筒(宛名記入済) | 債権者と申立人の分 | 封筒代(実費) |
個人再生委員報酬 | 裁判種が選任 | 15万円~ |
個人再生委員の報酬額は、裁判所によって異なります。
自己破産に必要な債務整理費用の相場
自己破産の手続きも裁判所を介して行う手続きなので、弁護士費用と裁判所費用を準備する必要があります。
自己破産では、次表のような弁護士費用が必要です。
費目(支払いのタイミング) | 費用の相場 |
---|---|
相談料(最初に相談する時) | 1時間以内無料~ |
着手金(正式に委任する時) | 30万円程度〜 |
報酬金(案件が成功した時) | 20万円程度~ |
自己破産に必要な裁判所費用は、次表のとおりです。
費目 | 内容 | 費用の相場 |
---|---|---|
予納金 | 官報掲載料 | 約1,500円 |
引継予納金 | 破産管財人の報酬 | 20万円~ |
収入印紙代 | 申立手数料 | 約1,500円 |
郵便切手代 | 通知呼出料など | 約4,000円 |
封筒(宛名記入済) | 債権者と申立人分 | 封筒代(実費) |
個人再生の場合と異なり、自己破産の場合には個人再生委員の報酬の必要がありません。
過払い金返還請求にかかる債務整理費用の相場
過払い金返還請求にかかる債務整理費用は弁護士費用であり、相場は下表のとおりです。
名称 | 費用の相場 |
---|---|
着手金 | 0円~ |
解決報酬金 | 債権者1社当たり2万円以下(商工ローンは5万円以下) |
過払金報酬金 | 返還額約20%以下 |
債務整理費用はだれでも払えるのか?
債務整理に必要な弁護士費用や裁判所費用は、借金の返済に苦しんでいる債務者の多くにとって、決して簡単に準備できる金額とは言えないでしょう。
しかし、多くの債務者が弁護士に委任して債務整理を行い、弁護士事務所とのトラブルもなく確実に払えているのはなぜなのでしょう。
それができているのは、次のような3つの要因によるものと言えます。
- 債務者が支払うことのできる債務性手続きを弁護士が提案してくれる
- 債務整理費用を上回る「借金減額」などのメリットを得られる
- 弁護士費用の支払いはいくつかの方法から選べる
以降では、これらの要因について見ていきましょう。
債務者が支払うことのできる債務性手続きを弁護士が提案してくれる
債務整理の案件を数多く扱った経験を持つ弁護士は、債務者の借金状況を確認することで、どの債務整理手続きを選択すべきかどの程度の費用が必要かなどを適格に判断できます。
さらに、弁護士は、債務者にどの程度の費用が準備できるかを確認したうえで、いつ・どのように費用を準備するかなどを債務者と一緒に考えてくれるのです。
したがって、弁護士に対して借金や手持ち資金などの状況を正直に伝えている限り、債務整理費用の支払いに関して債務者が心配するようなことはありません。
債務整理費用が「払える・払えない」といったことは、委任契約を締結する前の段階である債務者が担当弁護士に相談をする際に一緒に考えていく事項なのです。
債務整理費用を上回る「借金減額などのメリット」を得られる
債務整理の手続き別に得られる「借金減額」のメリットは、次表のとおりです。
債務整理 | 減額効果 |
---|---|
任意整理 | 利息がカットされるため、月々の支払額が少なくなって負担が軽減される可能性がある |
個人再生 | 住宅を失わないで借金を5分の1程度まで減額し、原則3年間で分割返済 |
自己破産 | 一定の価値がある財産は手放すが、借金を全額免除してもらえる |
こうした借金減額効果が期待できるだけではなく、手続き上で発生する複雑で難しいさまざまな実務のほぼすべてを弁護士に委任できます。
この借金減額効果を債務整理ごとに必要とされる費用との比較によって「借金で苦しんでいて手持ち資金がない状態であっても、なぜ弁護士に委任するか」ということが理解できるのではないでしょうか。
弁護士費用の支払いはいくつかの方法から選べる
毎月の返済で苦しい状態であるにもかかわらず、弁護士に債務整理を委任した債務者のほとんどすべてが、キッチリと弁護士費用の支払いができています。
これは、弁護士や法律事務所の多くが債務者の厳しい生活状況を理解しており、債務整理の弁護士費用の「分割払い」を認めていることが要因の1つです。
また、弁護士に委任した時点から借金の督促が止まり、「その月から債権者への返済の必要がなくなること」も、弁護士費用の捻出を可能にしている要因と言えるでしょう。
弁護士費用の支払い方法は、このような「分割払いの利用」以外の選択肢としては「法テラスを利用する」といった方法もあります。
どのような方法で弁護士費用を捻出するか・どのような支払方法を選択するかといった実務的なことは、委任契約の締結前にと相談しながら決定します。
債務整理費用が払えない場合はどうしたらいい?
債務整理費用とは、債務整理を行う際に裁判所と弁護士に支払わなければならない2つの費用です。
したがって債務整理費用が払えない場合、次のような問題が発生する可能性があります。
- 裁判所費用が払えないと、裁判所に債務整理手続きの申立てそのものができない
- 弁護士費用が払える見通しがないと契約を締結できないので、別な方法を検討せざるを得ない
すでに紹介したとおり、担当弁護士とのしっかりとした相談や打合せができていれば、こうした問題が発生する可能性は低いと言えます。
しかし、万一、債務整理費用が払えない場合、どのようにしたら良いのでしょうか。
ここでは、「債務整理費用が払えない場合の解決法」について解説します。
債務整理費用が払えないときの代表的な解決法は3つ
債務整理費用が払えない場合、一般的に行われる解決策は次の3つです。
- 債権者への支払いを一時ストップさせる
- 債務整理費用の分割払いを利用する
- 法テラスの民事法律扶助制度を使う
すでに紹介したとおり、債務整理費用が払えるか払えないかといったことは、弁護士と委任契約をする前に行われる「相談」の時点で明らかになることです。
したがってその時点で、担当弁護士からは債務者に対し、問題解決に向けた適切なアドバイスが行われます。
債務者は、担当弁護士からのアドバイスに従って対応することによって、問題は解決するのです。
以降で、3つの解決策について1つずつ解説しましょう。
債権者への返済を一時ストップさせる
この「債権者への返済を一時ストップさせる」ことは、債務整理費用が支払える・支払えないといったこととは別に、債務整理をする際には普通に行われる対策でもあります。
債務者から債務整理の委任を受けた弁護士は、自分が債務者の代理人として、債務整理手続きを行うことを各債権者に知らせる「受任通知」を送付するのです。
「介入通知」や「債務整理開始通知」とも呼ばれるこの通知を送付すると,貸金業者や債権回収会社といった債権者からの直接の取立てや、督促が停止されるという法的な効果を生じます。
また、受任通知で債務整理の手続きを行う債務者の意思を示すことで、送付した時点から手続きが終了するまで、借金の返済も一時停止できる法的な効力もあるのです。
つまり、債務整理の手続き開始から手続き完了までの期間は、支払いがなくなることで、毎月の支払いに充てていた資金を弁護士費用に充てることで、ほとんどのケースにおいて裁判所費用と弁護士費用を積立てできる可能性があります。
手続きに要する期間は3カ月程度が目安なので、毎月10万円ずつ返済していたとすると、30万円の費用を準備できるのです。
また、個人再生の場合、手続きに要する期間は6~12カ月程度が目安なので、毎月10万円ずつ返済していたとすると60~120万円の費用を準備できる可能性があります。
受任した弁護士は、債務者の借金状況を確認しながら、債務者の費用の捻出方法についても具体的に検討し、当該債務者にとって最適な債務整理の手続きを提案してくれるのです。
なお、この債権者返済を一時ストップさせる方法は、債務者自身で債務整理をするケースでは利用できません。
受任通知を発送できるのは、弁護士や司法書士に限られていることから、債務者が受任通知を送って「借金の支払いを止めたい」と思っても不可能ということは覚えておきましょう。
債務整理費用の分割払いを利用する
債務整理によって、その後の返済の負担が減るとはいえ、毎月の返済で苦しんでいる債務者の中に、裁判所や弁護士の費用を容易に払える人は、それほど多いとは言えないでしょう。
法律事務所や弁護士も債務者の困難な状況をよく理解していることから、多くの事務所では弁護士費用の支払いに柔軟な対応を準備しています。
具体的には、弁護士費用の「分割払い」を認めるのが一般的です。
また、近年は弁護士費用だけではなく、裁判所費用も含めた債務整理費用総額を「分割払い」を認める法律事務所もあります。
債務整理費用をどのように支払うかは、債務整理の相談の際に担当弁護士と債務者の間で確認しなければならないことです。
債務整理を確実に支払えるようにするには、相談の際に債務者は自分の債務状況や現在の収入、手持ち資金などについて正直に弁護士に伝えなければなりません。
そのうえで、支払い方法についても具体的に相談しておく必要があります。
そうした相談や打合せがしっかりとできている限り、債務整理費用が払えないといった問題は起こりません。
法律事務所による違いはありますが、「分割払い」の概要は次のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
対象費用 | 弁護士費用(裁判所費用も含める事務所もある) |
返済月額 | 債務整理後の毎月の支払金額に応じて決定 |
分割回数 | 行う手続きによる |
金利 | 金利や手数料はほとんど発生しない |
なお、弁護士費用と債務整理後の返済の両方を支払うのが厳しい場合は、弁護士費用だけを支払い、完済後に債権者への借金を返済していくことも可能です。
返済に関してのさまざまな心配は、無理のない返済のプランを担当弁護士にも一緒に考えてもらうことで解決できます。
なお、確実に支払えるプランの作成が困難な場合や、より安価な費用で抑えなければならない場合には、セカンドオピニオンを求めるという方法があります。
法テラスの民事法律扶助制度を使う
債務整理費用が払えないときのこの解決法では、「法テラス」の民事法律扶助制度(立替制度)を使います。
法テラスとは、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所で、全国各地に事務所を持つ団体です。
正式名称を「日本司法支援センター」という法テラスは、さまざまな法的トラブルの解決を目的に、専門的な立場から相談者をサポートする法務省管轄の公的機関として、平成18年4月に設立されました。
以降では、この解決法を具体的に紹介していきます。
弁護士に相談したり、裁判所に申し立てたりなどの方法で問題の解決を図らなければならない場合、資力に乏しく生活にゆとりのない人は、裁判をあきらめざるを得ない状況になる可能性が高いと言えます。
そうした人を対象に、法律相談を受けたり裁判費用や弁護士費用を立て替えたりするのが法テラスの民事法律扶助制度(立替制度)です。
ただし、生活保護を受給している人を除き、自己破産の予納金は立替えの対象にはなりません。
また、個人再生の予納金については、生活保護の受給の有無に関係なく立替えの対象外となるので、覚えておきましょう。
この民事法律扶助制度では、費用の立替えだけではなく費用の分割での返済が認められ、弁護士を紹介してもらえるようになっています。
民事法律扶助制度を利用するには、次の3つの条件を満たしていなければなりません。
- 勝訴の見込みがある:自己破産の免責など、債務整理に解決の見込みがある
- 民事法律扶助の趣旨に適している:報復的感情を満たすだけや権利乱用の訴訟などには援助しない
- 収入や資産が一定額以下であること:下表のとおり
家族数 | 手取り月収合計額の基準 | 資産合計額の基準 |
---|---|---|
1人 | 182,000〜202,200円以下 | 180万円以下 |
2人 | 251,000〜276,100円以下 | 250万円以下 |
3人 | 272,000〜299,200円以下 | 270万円以下 |
4人 | 299,000〜328,900円以下 | 300万円以下 |
ネット上には、「一般相場の3分の1程度の費用で委任できる」といった紹介まであるようです。
しかし、弁護士報酬はそれぞれの弁護士や法律事務所で独自に設定されることから、法テラスの弁護士費用は法テラスに属さない弁護士よりも、絶対に安いとは言えません。
ここに、法テラスの債務整理ごとの弁護士費用を紹介するので、委任する弁護士を探す際の費用を比較するためのツールとして利用してください(過払い金返還請求をする場合は、別途、報酬金が必要です)。
債権者数 | 任意整理事件 | 民事再生事件 | 自己破産事件 |
---|---|---|---|
1~10社 | 実費10,000~25,000円 着手金33,000~154,000円 | 実費35,000円 着手金165,000円 | 実費23,000円 着手金132,000円 |
11~20社 | 実費30,000円 着手金176,000円 | 実費35,000円 着手金187,000円 | 実費23,000円 着手金154,000円 |
21社以上 | 実費35,000円 着手金198,000円 | 実費35,000円 着手金220,000円 | 実費23,000円 着手金187,000円 |