任意整理と個人再生の大きな違いは元金を圧縮するか、元金はそのまま返済するのかといった点が挙げられます。
どちらも自己破産と異なり、債権者へ返済を行う必要があり、3年~5年掛けて借金を解決していくといった流れになります。
前提となる条件が、まず月々の返済を行っていくための支払い能力があるのかという事になります。
返済がより楽になるのは「個人再生」で任意整理は将来利息が掛からない代わりに元金分は返済しなくてはなりません。
逆に任意整理は裁判所の申し立てが必要ではないため、官報にも記載されませんし、家族にも知られずに手続きを行うことができます。
どちらもメリットとなる点とデメリットとなる点がありますが、専門家へ相談するまでにどちらにするか決めておかなければならないという事はなく、どのような方法が合っているかも含めてご相談出来ますので、ご安心下さい。
本記事では、司法書士や弁護士に相談される前に予備知識として「任意整理」と「個人再生」はどのような違いがあるのか詳しく解説しておりますので是非、ご参考頂けますと幸いです。
任意整理と個人再生を比較
任意整理と個人再生は何が違うのか?以下、比較表をご覧ください。
任意整理 | 個人再生 | |
利用条件 | 安定した収入があること 返済の意思があること | 安定した収入があること 返済の意思があること 借金総額5,000万円以下(住宅ローン以外) |
減額対象・割合 | 利息分(遅延損害金) | 元金・利息共に減額 借金を80~90%減額 |
返済期間 | 原則3~5年 | 原則3年(延長処置で5年) |
減額の範囲 | 整理する借金は選べる | 全ての借金が対象 |
高額財産の差し押さえ | なし (ローンが残っている場合は有) | なし (ローンが残っている場合は有) |
裁判所の介入 | なし | あり |
官報への掲載 | なし | あり |
信用情報機関への登録 | あり | あり |
司法書士の取り扱い | 可能 ただし借金140万円以下 (一案件につき) | 可能 ただし、代理人として出来る手続きに限りがある |
利用条件について
任意整理も個人再生も借金がゼロ(免責)になるわけではないため、
- 安定した収入があること
- 返済の意思があること
これらが利用できる条件として共通しており、返済の目途が立つことです。
個人再生(小規模個人再生)はさらに、
- 任意整理では返済が困難な状況である
- 返済できない可能性がある(自己破産を考えるような経済状況である)
- 借金の総額が5,000万円以下の方
でなければ利用できません。
任意整理よりも個人再生の手続きは複雑であり、手続きに必要な書類も多くなります。
減額割合、返済期間について
任意整理、個人再生ともに借金の減額を目的とした債務整理ですが、任意整理と個人再生では減額される割合が異なります。
任意整理は将来に支払う利息は免除できますが元金分は残ります。元金分を分割して返済できるよう返済期間も含め債権者(貸し手側)と交渉します。
例えば、利息を免除した元金が180万円の場合で返済期間が5年間で成立した場合、毎月3万円返済していく形となります。
対して個人再生は利息を免除するだけでなく、遅延損害金や元金も含めた借金の総額を減額できます。
どのくらい減額されるかは借金総額(基準債権)により異なります。
借金総額(基準債権) | 最低弁済額 |
~100万円 | 借金総額 |
100万円~500万円 | 100万円 |
500万円~1,500万円 | 借金総額の5分の1 |
1,500万円~3,000万円 | 300万円 |
3,000万円~5,000万円 | 借金総額の10分の1 |
例えば、借金総額が200万円の場合であれば、借金は100万円まで減額されます。この減額された100万円を原則3年間で返済していくため、毎月2.8円程度返済していく形となります。
ちなみに借金総額が100万円以下の場合、個人再生を行っても減額されないため、全ての人が大幅に借金を減らせるわけではありません。
減額の範囲、高額財産の差し押さえについて
任意整理と個人再生では減額となる借金の範囲が異なります。
任意整理は減額したい債権者(貸し手側)を選ぶことができますが、個人再生の場合は全債権者へ通知、全ての借金が対象となります。
任意整理をする借金を選べるため、例えば車を購入し、支払い中の場合は任意整理せず、車を所有しつづけることも可能です。
支払い中のローンを任意整理の対象に含めてしまうと車を回収される場合があるためです(ローンで支払っている場合、車の所有権はローン会社にあるためです)。
また任意整理、個人再生では高額財産、つまり持ち家や車(ローン支払い済み)を差し押さえされません。
裁判所の介入、官報への掲載
任意整理は裁判所を介さず行うことができますが、個人再生は裁判所を介し手続きが必要となります。
裁判所を介す必要のある個人再生ですが出廷するのは基本、申立の時のみ。弁護士に依頼している場合は弁護士が代理で申立も可能です。
また個人再生を行うと官報に掲載されます。
官報に掲載される情報は個人再生を行った旨の他、氏名、住所なども掲載されます。インターネットでも官報は閲覧できますので、誰かに知られる可能性はゼロではありません。
信用情報機関への登録について
任意整理、個人再生ともに行った場合は信用情報機関へ登録されます。
- CIC
- JICC
- 全国銀行個人信用情報センター
信用情報機関へ登録されると最低でも5年間以上は記録が残るため、その期間は新規でローンを組むことやクレジットカードを作ることはできません。
また現在、利用しているキャッシングカードやクレジットカードも利用できなくなります。
任意整理の場合、任意整理していないキャッシングカードやクレジットカードでも、ローン会社等が信用情報を照会したタイミング(途上与信)で利用できなくなる可能性があります。
もし任意整理後、クレジットカードが使えるとしても新たな利用は避けましょう。利用するのであれば、クレジットカードの代わりにデビットカードを活用しましょう。
司法書士の取り扱いについて
任意整理、個人再生ともに弁護士だけでなく、司法書士に依頼できますが注意が必要です。
司法書士に依頼する場合は以下の対応のみ可能です。
任意整理 | 1社あたりの借金額が140万円以下の借金は対応可能 |
個人再生 | 申立に必要な書類等の作成は可能。 ただし申立時は裁判所に代理で出廷できないため、 個人再生する本人の出廷が必要。 |
任意整理は1社あたりの借金額が140万円以下であれば、費用も安くなる司法書士を利用するのも一つです。
しかし個人再生は申立他、個人再生委員との面談時、司法書士は同席することができません。つまりご自身で裁判所に出廷しなければならず、出廷するのも平日となります。
また弁護士に依頼している(代理弁護士がついている)場合であれば、個人再生委員の報酬は原則15万円です。
しかし弁護士がつかない場合は25万円以上の費用がかかるため、個人再生は弁護士に依頼した結果、費用を抑えることができます。
任意整理に向いておられる方
任意整理が向いている方は以下の場合です。
- 収入があり返済の意思がある
- 支払い中のローンがある
- 減額したい借金が限られている、もしくは選びたい
- 家族や職場、他人に知られたくない
収入があり返済の意思がある
任意整理は利息分の免除はできますが、元金分は返済していくため、収入がある方でなければ、任意整理を行っても意味がありません。
任意整理で決められた返済をしなければ、期限の利益の喪失に伴い、債権者から残債分を一括請求されます(返済が2ヶ月以上滞った場合など)。
期限の利益とは約束通り返済をしていれば、返済を請求されない権利です。任意整理を行った時に交わされる和解契約書に従わなかった場合、利益を喪失します。
滞納した場合の多くが一括返済を求められます。
支払い中のローンがある
例えば車をローンで購入したものの、ローンが残っている場合です。
ローンを支払い中に任意整理を行えば、車は回収される可能性があります。
これは支払い中の場合は所有権がローン会社にあるためです。
ローンで購入した物を回収されたくないが借金を減らしたい場合など整理する借入先が選べるため、任意整理が向いています。
減額したい借金が限られている、もしくは選びたい
減額したい借金を選べる利点は保証人に迷惑をかけたくない場合、また支払い中のローンを外したい場合です。
任意整理を行った場合はまず保証人が請求されます。特に連帯保証人の場合は催告の抗弁がないため、請求が行ってしまいます。
家族や友人などが保証人になっている場合で任意整理をしたくない借金であれば、任意整理の対象から外しましょう。
ローンで買い、支払い中の物があった場合、任意整理を行うことで買った物は回収されてしまいます。手放したくない物であれば、整理する対象から外しましょう。
家族や職場、他人に知られたくない
債務整理を家族や友人、勤め先の人に知られたくない場合、任意整理であれば知られる可能性は極めて低くなります。
任意整理の場合、手続きは裁判所を介す(出廷する)ことなく、弁護士や司法書士だけで対応できます。また手続きに必要な書類も用意しやすいのが特徴です。
任意整理で用意するものは基本、以下のものとなります。
- 印鑑(シャチハタは不可)
- 身分証明書(現住所が確認できるもの)
- キャッシングカードやクレジットカード(現在利用中のもの)
- 収入証明書(源泉徴収票等)
- 給与明細書(直近2ヶ月程度)
- 現在利用しているローンやクレジットカードの一覧表(債務一覧表)
- 返済額や借入残高がわかる物
- 金融機関の通帳(預貯金が把握できるもの)
手続きのやり取りは弁護士、司法書士に依頼すれば、全て対応してくれるため、ご自身宛に債権者(借り入れ先)から連絡が入ることはありません。
任意整理に必要な書類も基本は自宅に送られてきますが、事務所で受け取りもできます。
また任意整理の場合、個人再生のように官報に掲載されることもないため、他人に知られずに行うことができる債務整理と言えます。
個人再生に向いておられる方
個人再生が向いている方は以下の場合です。
- 収入があり返済の意思がある
- 持ち家を手放したくない
- 借入理由が原因で自己破産ができない
- 資格制限を避けたい
- 任意整理では支払いが難しい
収入があり返済の意思がある
個人再生は大幅に借金が減額されるとはいえ、返済しなければなりません。
再生計画案で決めた返済額を支払っていけるだけの収入があり、返済の意思があることです。
収入は正社員でなくても、パートやアルバイトでも個人再生を行える場合はあります。いかに再生計画案通りに返済していけるかです。
無職の方、生活保護を受けている方の場合、個人再生の認可はまず下りないと考えましょう。
持ち家を手放したくない
個人再生であれば自己破産と違い、持ち家はもちろん、住宅ローンの支払い中の方でも「住宅ローン特約」を利用することで手放さずに済みます。
つまり住宅ローンを除き、他の借金を減らすことが可能です。
借金が多く、持ち家を失いたくない方であれば、自己破産ではなく、個人再生を検討しましょう。
借入理由が原因で自己破産ができない
自己破産したいと考えていても借金の原因が浪費(ギャンブルなど)であれば、自己破産は認められない可能性がありますが、個人再生であれば手続きできます。
自己破産は浪費が原因の借金は免責不許可事由に該当すると破産法252条1項4号にあります。
浪費又は賭 博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
引用元URL:
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075#1532
しかし個人再生の場合、民事再生法においては不許可事由に記載されていません。
資格制限を避けたい
個人再生は自己破産のように資格制限がありません。
資格制限を受けると士業(弁護士や司法書士)など資格を要する職業、また警備員といった職業に就くことが一時的にできなくなります。
個人再生は、自己破産のように借金は免責になりません(ゼロにならない)が、資格制限を受けると困る、しかし大幅に借金を減額したいのであれば、適しているといえるでしょう。
任意整理では支払いが難しい
個人再生を行う場合、費用は高額になるため、減額する借金が少ない場合には向きません。
減額できる借金と支払う費用を天秤にかけますと、借金総額が200万円を超えない場合は個人再生を行うメリットは少ない場合が多いでしょう。
まとめ
任意整理であれば将来支払う利息分を免除、元金を分割して返済していきます。個人再生は利息分だけでなく、元金も含め、大幅に借金を減額し返済していきます。
任意整理は利息分のみの免除となるため、どのくらい借金が減額されるのか、そして負担なく毎月返済していくことができるのか、しっかりと確認しておくことが重要です。
減額される金額が希望通りであれば、手続きの容易さ、他人に知られず債務整理を行えますし、費用に関しても140万円以下であれば司法書士に依頼することで安く行えるなど、任意整理を有効な借金減額方法といえるでしょう。