時効援用とは│費用や手続きの流れを解説

時効の援用

消滅時効の援用とは、時効が完成した借金の返済義務を免れるための手続きです。

法律で定められた期間の経過によって借金の時効が完成した際に、時効の援用手続きが出来ます。

しかし、期間が経過していても援用手続きを行うまでは返済義務を免れず、時効の援用は借金返済に悩む方にとって、非常に重要な手続きです。

この記事では、時効の援用の具体的なやり方と費用、時効完成の確認方法や時効の更新事由などを詳しく説明します。
 

この記事で分かること
  • 時効の援用で借金の返済義務を消滅させる
  • 法改正により時効期間の基準が変更
  • 連帯保証人の返済義務も消滅する
  • 信用情報への事故情報が削除・訂正される
  • 時効が中断・延長する可能性がある
  • 時効の援用の費用
  • 弁護士は全ての業務を遂行できる

時効の援用とは│借金の返済義務を消滅させる

時効の援用とは、債権者が権利を行使せずに一定期間が経過した際に権利が消滅してしまい、それ以降は権利を行使できなくなる制度です。

借金をしたら返済する義務があり、もし返せなくなった場合には債権者から訴えられたり、自己破産で財産をすべて失うこともあり得ます。

しかし、借金には時効というものがあり、返済を行わないまま時効期間が経過すると、返済義務が消滅します。

では、時効の援用について詳しく解説していきます。

時効期間を正確に把握する必要がある

時効の援用を行うには、まず時効期間を正確に把握する必要があります。

時効の援用を行うために債権者への通知を行ったものの、時効期間が経過しておらず時効が成立しない危険性があります。

時効の援用を行う旨の通知を行った時点で、債権者が時効成立を阻止するために裁判所へ強制執行の手続きをとった場合、時効期間が中断されてしまいます。

時効期間を正確に把握するためにも、弁護士に依頼するのが良いでしょう。

法改正前の借金は従来の基準が適用される

2020年4月1日以前の借金については、従来の基準が適用されます。

カードローン、キャッシング、消費者ローンなどの貸金業者の場合は5年、個人間の債権などの場合は10年となっています。

返済しないまま、この期間を経過しているのが条件となります。

改正前の時効期間の一覧は以下の通りです。

【改正前】(2020年3月31日まで)
時効期間債権種別改正前条文
1年宿泊料、運送料、飲食代金民法第174条
2年商品の売買代金民法第173条
2年弁護士報酬民法第172条
3年設計費・工事代金、診療報酬民法第170条
5年消費者金融・賃金業者、信用金庫の借入民法第166条(債権等の消滅時効)
商法第522条
10年個人間の借入等民法第166条(債権等の消滅時効)
引用元:改正前条文 民法(債権関係)部会資料商法第522条

商事債権かどうかで時効期間が異なる

最高裁昭和63年10月18日判決において、「信用金庫の行う業務は営利を目的とするものではないというべきであるから、信用金庫は商法上の商人には当たらないと解するのが相当である」と判示されており、信用金庫は商人では無いとされています。

したがって、信用金庫が貸主である貸金の時効期間は10年になりますが、商人である会員の営業のための貸金については商事債権となるため、時効期間は5年となります。

例えば個人事業主や会社が信用金庫から事業資金を借り入れたのであれば、貸金債権の時効期間は5年です。

引用元:最高裁昭和63年10月18日判決内容

求償権により時効期間が変わる

保証協会が主債務者に代わって債務の弁済をした場合、主債務者に対して求償権を取得することになり、求償債権の消滅時効は「保証協会が代位弁済をした時点」から進行します。

保証協会も商法上の商人では無く、直接の借り入れは商事債券には当たらないため、通常の債権と同様に時効期間は10年です。

しかし、保証協会が商事債権から委託された場合は5年です。

例えば保証協会が、個人事業主や会社の委託に基づいて保証したときは、求償権の時効期間は5年です。

法改正後は新たな基準

時効の援用は、借金が時効期間を経過しているのかがポイントとなり、債権者法でその期間が定められていますが、2020年4月1日に法改正によって基準が変更されています。

そのため、法改正以前に借入した借金については従来通りの基準、法改正以降の借金については新基準が適用されるため、自身の借金がどちらの基準に当たるかを確認しましょう。

法改正された2020年4月1日以降の借金については、以下の基準に変更になり、どちらかの早く時効が成立する方の時効期間となるため、時効の援用を利用する場合は、自分がどちらに当てはまるかを把握しておきましょう。

  • 借金の時効について知った時から5年
  • 時効の援用を行う権利を行使できる時から10年

損害賠償の時効期間は最長20年

時効期間は主観的起算点から5年、もしくは客観的起算点から10年いずれかが経過した場合に時効が完成します。

更に以前は債権の種類ごとに時効期間が定められていましたが、民法改正によって一般的な債権の時効は統一されました。

不法行為による損害賠償請求権、生命・身体侵害による損害賠償請求権に関する時効は、以下の表を参考にしてください。

不法行為による損害賠償請求権損害及び加害者を知った時から3年間または、不法行為の時から20年間
生命・身体侵害による損害賠償請求権主観的起算点から5年、客観的起算点から20年(時効)
引用元:民法709条(不法行為による損害賠償)

改正後に生じた債権は新民法が適用される

民法改正附則によると、民法改正の施行日より前に生じた債権に関しては、改正前の民法の消滅時効期間によると定められています。

施行日より前に生じた債権とは、債権の原因となった法律行為が施行日前(2020年4月1日以前)にされた場合も含みます。

例えば、弁済期が改正民法施行後であったとしても、債権の発生原因となる法律行為(契約)が施行日前にされている場合には改正前の旧民法が適用されます。

なお、施行日前の商行為によって発生した債権に関しても、現行商法が適用されます。

連帯保証人の返済義務も消滅する

債務の内容によっては連帯保証人が付いていることもありますが、連帯保証人の借金にも時効は適用されます。

連帯保証人は、債務者と同等の債務を背負うことになりますが、保障債務にも時効が適用されます。

無事に時効期間を迎えた上で時効の援用を行えた場合、連帯保証人の返済義務も消滅します。

ただし、債権者から連帯保証人に督促連絡が届いた際、支払いに関する話をしてしまった場合に、時効が中断となってしまい、時効の援用が出来ない可能性があります。

時効の援用を行う際は、その旨を連帯保証人に伝えておくと良いでしょう。

信用情報への事故情報が削除・訂正される

借金を滞納していると、信用情報にブラックリストとして登録されてしまいますが、時効の援用が成立した場合、信用情報のすべてでは無いものの、登録された情報が削除・訂正されます。

JICC(日本信用情報機構)は削除、CIC(株式会社CIC)は訂正となる場合が多く、情報がそのままの場合は自分で削除や訂正を請求することも可能です。

時効の援用は、借金の返済義務が無くなることが最大のメリットですが、時効が成立した場合は信用情報が訂正出来るため、債務者にとって大きいメリットです。

信用情報の開示請求に掛かる費用は以下の通りです。

信用情報機関開示方法手数料
CICインターネット、郵送、窓口、1.000円(税込)
JICCスマホ、郵送、窓口1.000円(税込)

時効の完成には意思表示が必要

時効の援用は、借金返済をせずに時効を迎えた際に返済義務が消滅する制度ですが、そのまま何もせずに成立するわけではありません。

そのため時効が成立したことを口頭、もしくは書面で債務者に通知して、時効の援用を行う旨の意思表示をする必要があります。

内容証明郵便で通知する

口頭の場合、債権者に聞いていないと言われる危険性もあるため、内容証明郵便で時効援用通知書を送ることが有力となります。

通知を行なったことを証拠として残しておくためで、配達証明書・謄本などを適切に保管することが必要です。

内容証明郵便を出す際は、同じ内容の文章を3部用意する必要があり、押印もしなけれならないため、確実に用意しましょう。

方法が良く分からない方は、最寄りの郵便局でも教えてもらえます。

時効援用通知書の書式のポイント

時効援用通知書は決まった書式はありませんが、下記の必須情報の6点は必ず記載しましょう。

  • 契約日
  • 借入日
  • 契約日
  • 最終返済日(最終取引日)
  • 消滅時効の援用であること
  • 差出人・連絡先・日付

時効援用通知書には、必ず自分の氏名と住所を書いて、差出人を明らかにします。

時効援用は「いつ行ったのか」が後日争われることがあるので、必ず通知書を送った日付を記入しておく必要があります。

時効が完成していることを書く必要があり、時効の完成の明示は具体的には最後の返済の翌日からカウントして、時効成立に必要な期間が経過している旨を記載します。

最終返済日である年月日の翌日から、すでに5年が経過していると具体的に書きます。

最終返済日が分からなくても、最終返済日の翌日からすでに5年が経過していると記載しても構いません。

また、この通知では時効を援用することを明確に記載する必要があり、これを書かないと時効援用通知書にはなりません。

特に、消滅時効の援用をするという文言は他の言い回しをすると、時効の援用を行使できなくなる可能性があるため、正確に記載します。

時効が中断されていないか確認する

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時効期間が経過していても、本人が知らない間に賃金業者側が時効中断の措置を行っていたなど、時効中断が行われていた場合は、債務整理などの別の解決策も視野に入れなくてはなりません。

賃金業者が時効中断の措置を行っていたが、債務者本人が把握していなかった場合、時効が成立していない可能性があります。

時効期間が成立せず、時効の援用が出来なかった場合は債務整理を検討しましょう。

時効中断が行われているか、いつ時効期間が経過するか弁護士に相談し、時効が経過していない場合には、自分に適した解決方法を提示してもらいます。

時効が中断される3つの状況と例外的状況

時効の援用は、債権者側からの時効の中断措置があると、時効期間が経過しません。

さらに時効期間が延長されてしまうと、その時点から新たに時効成立まで待つ必要があります。

時効が中断されるのは主に3つの状況と1つの例外的状況があるので、詳しく解説していきます。

裁判を起こされる

長期にわたり借金を滞納してしまうと、債権者は債務者に対して支払いを求めて裁判を起こすことがあります。

もし裁判になった場合は、裁判所から通知が来た時点で時効の中断となり、時効期間がさらに10年延長されます。

特定記録郵便で通知されるため、直接書類を受けとった記録が残ってしまうため、無視をしても意味がありません。

判決が出る前は対応も可能であるため、早急に弁護士に相談するのが望ましいです。

差し押さえをされる

返済が滞っていると、債権者は債務者に対して財産及び銀行口座の差し押さえ等の強制執行を行う可能性があります。

これは債務者が資産を処分出来ないようにして、その財産を売却した金銭を返済に充てる措置です。

差し押さえ、仮差し押え、仮処分のうちどの行使があった場合でも、時効期間は即中断となってしまうため、債権者からの通知があった時点で債務整理等の解決策を考える必要があります。

承認してしまう

承認とは、借金があることを認める行為を指し、口頭や書面、直接的ではなく間接的に認めた場合でも承認したと判断され、時効が中断されます。

借金を滞納している場合、債権者から督促や状況確認の電話が来る可能性が高く、その際に「もう少し待ってほしい」「いつまでに払う」と返答した場合でも、時効は中断されます。

要は借金をしていることを認める、返済する意思を伝えてしまう、などの行為は、時効中断の危険性を高めてしまいます。

例外的に時効が中断する危険性がある

時効中断に当てはまる行為が無い場合でも、時効が成立しない例外があります。

借り入れ時に債権者に伝えた住所や電話番号を変更した場合に、変更内容を業者に伝えないと債務者に連絡を取れなくなり、請求が出来なくなります。

また、督促状や訴状と呼ばれる書面を住所が分からないと送達ができず、請求が出来ないため時効の中断を行えない可能性があります。

しかし裁判所は、住所を十分に調べても分からないという相手に対しては、相手方を呼び出さないままで訴訟を行い、結果として業者の言うとおりの判決を出す可能性があります。

そのため、このような訴訟でも請求と認められるため、引越しをしたのに業者に新たな住所を知らせていないと、自分の知らない間に時効が中断している可能性があります。

裁判を繰り返して時効の成立を阻止できる

裁判を起こされて判決が確定すると、10年間時効が延長されますが、10年が経過する前に再度裁判を起こすと、さらに10年間時効を延長できます。

このように10年ごとに裁判を起こし続けることで、永遠に時効を完成させない事が可能になります。

債権者側も、長期間返済されていない借金がある場合、時効完成直前に裁判を起こして時効を延長するという方法を取る可能性は高いです。

そのため、借金をしている人が居場所を隠し、長期間債権者から逃げ続ける事は困難な場合があります。

時効の援用をしても催促が止まらない可能性がある

時効の援用は、通知を債権者に送付することが手続きとなるため、債権者が納得して借金返済請求を放棄しない可能性もあります。

時効の援用をしたのにも関わらず、債権者が支払いの催促をしてくる場合があり、その場合貸金業者などから減額和解提案書が送られてくる可能性があります。

これは少額でもいいから借金を返済してもらうための手段ですが、時効の援用が成立しているのであれば、和解に応じる必要はありません。

訴状には答弁書で時効の援用を主張

債権回収会社とは、債権者から委託をされて債権の回収を行う民間企業です。

借金を滞納している場合、債権者や債権回収会社から督促状が届く可能性がありますが、時効の援用を主張できます。

その際、借金や支払いについて話し合うと時効の援用が出来なくなるので、時効の援用を行う旨のみを伝えるようにします。

時効の援用の費用

時効の援用は、自己破産や個人再生などの債務整理に比べると、手続き自体はそれほど複雑では無く、時効援用通知書を内容証明郵便で送るだけです。

しかし、時効期間の算出、時効援用通知書の書き方など間違えてしまった場合に、時効の援用が失敗してしまう危険性もあるため、弁護士に依頼する方が確実です。

自分で手続きを行うと費用は抑えられる

法律家に依頼せずに自分で手続きを行う場合は、配達証明郵便にかかる費用だけで済みます。

掛かる費用の目安は以下の通りです。

なお最大の文字数は1枚520文字までとなっており、2枚目が必要となるとさらに加算されます。

基本費用84円
一般書留の加算料金435円
内容証明の加算料金440円
配達証明320円

費用をかけず時効の援用を行えますが、債権者側が訴訟を起こした、時効が出来なかったなどの場合は、交渉が必要となるケースもあるため、弁護士に依頼せずとも一度話を聞いてから行ったほうが確実です。

弁護士は全ての業務を遂行できる

時効の援用を弁護士に依頼した場合の費用は、1社あたり約3万円〜程度となります。

それに追加で手数料、開示請求、信用情報の確認費用などが掛かります。

時効援用通知書の作成や送付はもちろん、時効の援用が可能かどうかの調査だけでなく、債権者との交渉や裁判に発展した場合も対応してもらえます。

司法書士の場合は依頼費用を抑えられる可能性はありますが、業務内容は時効援用通知書作成と送付のみです。

そのため、自分で時効の援用を行った場合と変わらない可能性があります。

時効の援用を成功させるために重要となるのが消滅時効期間の把握であり、確実に把握するためには、弁護士に依頼するのが確実です。

債務整理で借金問題を解決する

結論として、時効の成立を待つよりも、債務整理で借金問題を解決した方が良い場合もあります。

債務整理をすると、借金が減額されたり、自己破産で免責を得て借金をなくしてもらったり、苦しい借金問題から解放される可能性が高いです。

手続きによっては、金融会社から裁判を起こされた後でも債務整理が可能で、給料などを差押えられても、効力の失効も可能になります。

債務整理を行うには法的知識が必要となり、債務整理にも任意整理や自己破産などいくつかの種類があり、状況に応じた最適な方法を選択する必要もあります。

弁護士に依頼すると、債権者からの督促も来なくなり、もしも時効が成立しているようであれば、安全な方法で時効を援用してくれるため、まずは相談するのが賢明です。

時効の援用が成立すると、借金返済の義務が免除されます。

さらに時効の援用が成立した場合は、信用情報の事故情報も抹消される可能性があるため、金銭面における利便性も回復するでしょう。

時効が完成しているかについて適切に判断するためには、法律的な専門知識が不可欠です。

そのため、借金の時効について迷った場合は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

たとえ時効の援用ができないことが判明したとしても、弁護士であれば、債務者にとってベストな解決策を提示してくれるでしょう。

借金問題全般について悩みがある方は、この記事を参考に弁護士に相談してみてください。