自己破産しても残せるものや財産はどのようなものがある?

自己破産

自己破産は、「借金はなくなるが普通の生活が送れなくなる」といった誤解を持たれている債務整理の1つです。

その誤解から手続きに踏み切れず、月々の返済に苦しんでいる債務者が多いと言われています。

 安易な気持ちで借金返済義務の免除を求めるのはおすすめできませんが、どうしても返済が難しい場合は、債務整理に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。

自己破産は、債務者の全財産を没収し、生活をさらに困難にさせるような手続きではありません。

借金の返済義務を免除するとともに、一定の財産を残すことで債務者の経済的な自立を目指す手続きと言えます。

ここでは、「自己破産をしても残せるものや財産にはどのようなものがある?」をテーマに、自己破産をしても残せる財産について解説します。

この記事でわかること
  • 自己破産は「破産」と「免責」の2つの手続きで構成
  • 「同時廃止事件」と「管財事件」への振分けは申立人の財産状況で決定
  • 財産の取扱いは破産管財人の役割で破産管財人の職務執行の監督が裁判所の役割
  • 財産の取扱いで注意すべきことは「債権者平等の原則偏頗弁済の禁止財産隠ぺいや不正処分」
  • 自己破産をしても自由財産と自由財産の拡張で財産は残せる
  • 自由財産として認められている財産は「新得財産差押禁止財産99万円以下の現金」など5種類
  • 自由財産の拡張は当該裁判所の職権で自由財産と見なされる財産

自己破産手続における財産の取扱い

自己破産は一般に、「裁判所に破産を申し立てて免責許可が得られると、借金返済が免除される法的手続き」と言われます。

これが誤りということではありませんが、これだけでは十分な説明とは言えません。

自己破産手続きの意義や目的には、「申立人の経済的な自立と生活再建」と「債権者への破産財団の平等な配分」があることは押さえるべきポイントです。

ここでは、自己破産手続きにおいて、申立人の財産はどのように取り扱かわれるかを解説します。

自己破産とは債務者による自分の破産申立て

自己破産は、2つの手続きで構成されている債務整理手続きです。

この自己破産の手続きは2つに分かれており、1つを「破産手続」、もう1つを「免責手続」と言います。

破産手続きとは、裁判所に自己破産を申し立てた人の財産を換価処分し、それを債権者に平等に弁済または配当する手続きです。

申立人の財産は、裁判所が選任した「破産管財人」によって、「破産財団(申立人のすべての財産)」の名称で管理されます。

破産財団に組み込まれた財産は全て換価(金銭に換えること)され、債権者に対して平等・公平に配当されるのです。

破産手続きは、債権者と債務者のいずれからでも、開始の申立てが可能となっています。

債権者からの破産手続き開始の申立てを「債権者破産申立て」と言い、債務者からの申立ては自らの破産を申し立てるという意味で「自己破産」と言われているのです。

もう1つの「免責手続き」とは、申立人の借金全額の返済義務を法的になくす(免除する)手続きのことを言います。

自己破産は申立人の経済的更正も目的にした救済制度なので、生活に最低限必要な財産以外を返済に充てる代わりに、借金の返済義務を免除してもらえる可能性があります。

自己破産の手続きの種類は財産状況で振り分ける

自己破産には、「管財事件」と「同時廃止事件」の2種類があります。

さらに、管財事件の手続きは時間も費用も要するものであり、申立人の負担を軽減するため、平成11年4月からは予納金(一定の手続き費用)の少ない「少額管財事件」の手続きも行われるようになりました。

このことから、少額管財事件を取り扱っていない地方裁判所がありますが、自己破産の手続きは3種類とも言えます。

裁判所における申立ての振分け基準は原則として申立人の財産状況で、管財事件(少額管財事件を含む)と同時廃止へ振り分ける際の基準は次のとおりです。

  • 換価(金銭に換えること)できる財産がある場合は管財事件
  • 換価できる財産が特にない場合は同時廃止

なお、「申立人が20万円以上の財産を持ち、弁護士が代理人になって申立てをした場合」に限り、少額管財事件に振り分けられます(破産管財人は選任されません)。

以降に、3種類の手続きの特徴を要約して紹介しておきましょう。

管財事件

自己破産申立人に、「一定以上の資産(20万円以上の価値の財産)がある」「借金を抱えた理由に問題がある」といった場合に行われる手続きです。

「管財事件」とは管財案件のことで、破産管財人が中心となって自己破産手続きを進めます。

したがって、裁判所の役割は破産管財人の活動を監督することです。

管財事件で破産するには予納金が最低でも50万円も必要であることから、資金を持たない人は破産することさえ難しいといった問題がありました。

そこで平成11年4月に新たに導入されたのが、予納金が20万円で済む額管財事件です。

なお、借金総額が多いケースは管財事件になる可能性が高いことから、代理人を委任した弁護士に事前に相談することをおすすめします。

少額管財事件

少額管財事件は法律上の制度ではなく、破産法の範囲内で手続きの簡素化や迅速化を図り、管財事件の手間や費用を軽減する裁判所の運用方法です。

具体的には、破産管財人の業務負担を軽減するとともに、予納金を少額で済むようにする運用方法と言えます。

少額管財を運用している裁判所では、申立人の財産が一定額以下で免責不許可事由がないような場合は、この少額管財で手続きを行うのが一般的です。

なお、少額管財事件を運用していない裁判所がありますので、事前に申立てをする裁判所や弁護士に確認してください。

同時廃止事件

申立人に財産がなく調査などの必要がない場合に、破産手続き開始決定と同時に破産手続きを終了する手続きがあり、それを「同時廃止事件」と言います。

自己破産の申立人が、次の2つの要件を備えている場合の手続きです。

  • 債権者へ配当できる一定以上の資産(20万円以上の価値の財産)がない
  • 借金を抱えた理由に問題がない(免責不許可事由に該当しない)

この同時廃止事件の破産手続きは破産管財人を選任せず、短時間で終了するものです。

管財事件とは異なり、同時廃止であれば、予納金の必要がなく弁護士費用だけで済む大きなメリットがあります。

なお、破産手続きは開始と同時に終了しますが、免責手続きを開始してもらうためには、破産手続き開始の申立てとは別に書面による「免責許可の申立て」をしなければなりません。

財産の取扱いは破産管財人の役割

自己破産の手続きにおいては、申立人の財産の状況によって「管財事件(少額管財事件を含む)」か「同時廃止事件」のいずれかに振り分けられます。

申立人に換価できる財産がある場合は管財事件に振り分けられ、その後、財産の状況によって管財事件か少額管財事件に振り分けられるのです。

管財事件に振り分けられると、裁判所から破産管財人を務める弁護士が選任されます。

破産管財人を務める弁護士は裁判所から選任されることから、自己破産の代理を委任する弁護士とは違い、申立人が選べない決まりです。

破産管財人については、『破産法第2条』で「破産管財人とは、破産手続きにおいて破産財団に属する財産の管理および処分をする権利を有する者をいう」と規定されています。

破産管財人には、債権者に公平な配当を実施するために、申立人と同レベルの処分権まで与えられているのです。

この破産管財人の具体的な役割を列挙すると、次のとおりです。

  • 債務額の確定:
    破産手続き開始前に申立人が保有していた債務(破産債権)を調査
  • 財産の管理や処分:
    申立人が保有していたすべての財産の管理処分回収など
  • 免責調査:
    申立人が破産に至った原因や経緯を調査
  • 債権者集会の開催:
    財産や債務の調査状況や破産に至った事情、配当の可能性などの調査結果を報告
  • 配当手続き:
    債権者へ配当を実施し、そのことを任務終了計算報告集会で報告することで破産手続き終結決定

このように、破産手続きを行う際に、申立人に代わって申立人が保有している財産を現金に換え、債権者に分配するのが破産管財人です。

知っておきたい財産取扱いにおける3つのルール

破産の手続きは、申立人自らも行えることにはなっていますが、法律の専門家ではない申立人に『破産法』の定めにそった財産の適切な管理や分配は期待できません。

そうした問題をクリアするため、破産管財人には弁護士が選任され、それによって破産財団に組み込まれた申立人の財産は適切に処理され、債権者に分配されるのです。

ここでは、財産を適切に取り扱かう際に守るべき3つのルール、について紹介します。

配当は債権者平等の原則にもとづいて行う

破産財団に組み込まれた申立人の財産は、換価したうえで債権者に配分されます。

債権者平等の原則は、配分する際には債権の発生時期や債権額の多少などに関係なく債権者は平等に取り扱われる必要があり、特定の債権者だけが優先的に弁済を受けられないとするものです。

したがって債権者平等の原則というのは、複数の債権者がいる場合、持っている債権額に比例して平等に配当を受けられる原則と言えます。

「平等」は「同じ」と誤解されることがありますが、そうではなく「債権の割合に応じて」ということです。

たとえば、申立人がAから300万円・Bから200万円・Cから100万円の借金、つまり3:2:1の比率での借金をしていたとしましょう。

この場合、申立人の財産を換価して600万円あるとなった場合、3人に200万円ずつ配当するのではなく、全員に債権満額を配当します。

しかし、換価しても300万円しかない場合は、借金額の一番多いAだけを優先するとかCとDにだけ配当するといったことをしないで、3:2:1の比率で配当するのです。

その結果、Aに150万円・Bに100万円・Cに50万円を配当することで、債権者平等の原則が実現します。

偏頗弁済をすると免責は受けられない

「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とは、債権者平等の原則に反して、特定の債権者だけに借金の一部または全部の返済をすることです。

自己破産手続きでは債権者平等の原則が強く求められていることから、偏頗弁済をすることで次の2つのリスクがあります。

1つは、免責が認められない可能性があることです。

偏頗弁済は免責不許可事由に該当することから、免責を受けられない可能性があります。

もう1つは、破産管財人から偏頗弁済を否認される可能性があることです。

破産管財人から否認された場合は、偏頗弁済した金額と同額を破産財団に支払わなければなりません。

多くの人が犯してしまいがちな偏頗弁済の具体例を、ここに列挙しておきましょう。

  • 友人や親族などからの借金の返済
  • 住宅ローンや自動車ローンの一括払い
  • 滞納した家賃の支払い
  • スマホや携帯電話本体の代金の支払い

なお、偏頗弁済は、時として犯罪行為になる恐れがある行為です。

破産法266条に「特定の債権者に対する担保供与等の罪」が定められており、意図的に他の債権者に害を与えることが証明された場合に適用されます。

財産の隠ぺいや不正処分は違法行為

自己破産後の生活のために少しでも多くの財産を残したいとの思いから、自己破産の手続きを行う際に、財産を隠したり不正に処分したりといったことを考える人がいます。

申立人の財産であるとはいえ、そうした行為をした場合には、自己破産が許可されない(免責不許可)だけではなく「詐欺破産罪」の違法行為として処罰されます。

詐欺破産罪とは債権者を害する目的で財産を隠ぺいや不正処分することで、破産手続き開始の前や後を問いません。

次のようなケースも、詐欺破産罪に問われる可能性があるので、注意が必要です。

  • 申立書類に虚偽の記載や記載を漏らす
  • 一度も返済をしていない借金がある
  • 財産や資産の一部を他人に売却したり名義変更をしたりする
  • 新たな借金で自己破産費用を調達する
  • 財産を意図的に破損させて価値を下げる

なお、詐欺破産罪で科せられる懲罰は「1カ月以上10年以下の懲役」「1,000万円以下の罰金」で、この懲役と罰金の両方が科せられる場合もあります。

自己破産しても残せる財産があります

「自己破産をすると、現金や家財道具などまで没収される」「自己破産したら無一文になる」といった誤った情報を信用している人は実に多いようです。

しかし、自己破産は、借金の返済を免除する代償に申立人のすべての財産を没収するといった手続きではありません

自己破産をしても申立人が申立て後の生活に困らないよう、手元に残せる財産を法律で定めたうえで運用されています。

つまり、自己破産をしても、申立人は法律にもとづいて一定の財産を残せるのです。

ここでは、まず、自己破産をしても残せる財産の概要を紹介します。

自己破産は全財産を失う手続きではない

債権者にとっての自己破産とは、申立人の財産を換価処分して、それによって得た金銭を平等・公平に配当を受ける手続きです。

一方、申立人にとっては、免責許可決定を得ることで借金返済義務を免除してもらい、自らの経済的再生の機会を確保することが目的の手続きと言えます。

つまり、自己破産は、借金の返済義務を免除する見返りに申立人の全財産を没収したり、ペナルティーとして無一文にしたりする手続きではないのです。

すべての財産を没収したのでは、申立人は破産手続き開始決定後の生活が困難になってしまい、申立人の経済的更生を図れなくなってしまいます。

したがって、申立人が自己破産をしてもしっかりとその後の生活を送れるよう、生活に最低限必要な財産については処分の対象外として取り扱うのです。

自由財産と自由財産の拡張で財産は残せる

自己破産をしても、残せる財産は2種類あります。

この2種類の財産については後で詳細を解説しますが、1つは申立人の財産のうち破産財団に組み込まない財産で『破産法』の34条や78条に定める「自由財産」です。

もう1つは、裁判所の裁量で自由財産とされる財産で、これを「自由財産の拡張」と言います。

 破産法上では、「自由財産の拡張」は「自由財産」の1つとして定められています。 

したがって、正しくは「自己破産で残せる財産は自由財産だけです」と言うべきかもしれません。

しかし、「自由財産の拡張」は、他の自由財産とは全く異なる運用が行われています。

したがって、この記事では、自由財産の中の1つではなく、他の自由財産とは種類の異なる自由財産と位置付けて解説しています。

そもそも自由財産とは

自由財産とは、申立人が自由に管理・処分できる財産のことを言います。

自己破産の破産手続きでは、選任された破産管財人が申立人の持っていた財産を管理・換価し、債権者に公平・平等に分配することが目的の手続きです。

しかし、すべての財産を没収すると申立人は生活できなくなり、経済的再生を図る制度の目的に反します。

そこで、破産法では、破産管財人に没収されないで申立人の手元に残して自由に管理・処分できる財産を、「自由財産」として定めているのです。

ここでは、自己破産をしても残せる「自由財産」について、詳細に説明していきます。

自由財産に認められている財産は5種類

自己破産では、申立人の財産は換価処分が原則ですが、自由財産については申立人が自由に管理・処分が可能です。

これに該当する財産は破産財団に組み込まれない自由財産で、その内「新得財産・差押禁止財産・99万円以下の現金」の3つは「本来的自由財産」と呼ばれています。

これに加え、次の2つも自由財産として認められている財産です。

  • 破産管財人が「破産財団から放棄した財産」
  • 裁判所によって「自由財産の拡張が認められた財産」

このように、自己破産をしても処分されないで申立人の手元に残る自由財産は、「本来的自由財産」が3種類、また「その他の自由財産」が2種類存在します。

以降では、5種類の自由財産について紹介しましょう。

破産手続き開始決定後に取得した新得財産

新得財産とは、破産手続き開始決定後に申立人が取得した財産のことです。

自己破産において処分の対象になる財産は、破産手続き開始決定時に申立人が所有している財産に限られます。

したがって、破産手続き開始決定後に取得した財産は「新得財産」と呼ばれ、財産の種類や評価額などに関係なく破産財団に組み込まれることはありません。

したがって、自己破産をしても没収されることはなく、申立人の財産として残せるのです。

たとえば、次のようなものが破産手続き開始後に取得した新得財産に該当します。

  • 破産手続き開始決定後に支給された給与や賞与、退職金など
  • 破産手続き開始決定後に贈与された財産

なお、破産手続き開始後に何らかの所得を得た場合は、取扱い方について代理人の弁護士に相談してください。

破産手続き開始時点で所有する99万円以下の現金

破産手続き開始時点で申立人の現金は、99万円までであれば自由財産として手元に残せます。

自由財産として残せるのはあくまで現金で、預貯金については20万円を超えると自由財産とは認められず、破産団体へ組み込まれてしまうのが一般的です。

銀行などの預金や貯金は簡単に現金化できますが、法的には「預貯金払戻請求権」という債権であることから、自己破産の自由財産の現金には該当しません。

なお、99万円という、キリの悪い金額が設定された背景は、次のとおりです。

  • 民事執行施行令第1条で標準的な世帯の2カ月間の必要生計費を66万円であるとしていること
  • 上記から、1カ月間の必要生計費は33万円であること
  • 自由財産となる現金は『民事執行法第131条』で定める額に2分の3を乗じた額と『破産法』で定めていること
  • 上記から、自由財産は66万円に2分の3を乗じた額、つまり、「99万円の現金」ということ

このように、自己破産をしても、99万円以下の現金は自由財産として申立人に残されます。

法的に差し押さえが禁止されている差押禁止財産

差押禁止財産とは、法的に差押えが禁止されている財産を指します。

自己破産をしても、差押禁止財産に該当する財産は自由財産扱いされることから、没収されることはありません。

差押禁止財産に該当するのは、『民事執行法131条』に定める次のような財産です。

  • 生活に欠かせない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具
  • 1カ月間の生活に必要な食料および燃料
  • 標準的な世帯の2カ月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

この差押禁止財産は、大きく分けて以下の3種類があります。

  • 差押禁止動産
  • 差押禁止債権
  • 特別法上の差押禁止債権

以降で、どのような財産や資産が該当するか、具体的に紹介しましょう。

差押禁止動産

差押禁止動産には、『民事執行法131条』に定めるようにさまざまなものがあります。

代表的なものを挙げると、次のとおりです。

  • 申立人や家族の生活に欠に欠かせない衣服、寝具、台所用具、畳、建具などに加え以下のような財産
    →洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、掃除機、タンス、調理器具、食器棚や食卓セット、冷暖房器具など
  • 申立人や家族の1カ月間の生活に必要な食料や燃料
  • 仕事に欠かせない農家の農機具や漁業従事者の漁具など

この民事執行法131条のほか、差押禁止動産は生活保護法58条(生活保護金品や進学準備給付金)や信託法23条(一部の信託財産)のように個別法で差押えが禁止されているものもあります。

差押禁止債権

差押禁止債権には、『民事執行法152条』に定める次のような債権が該当します。

  • 給料や賞与、退職年金の4分の3に相当する部分(ただし、給料の手取りが44万円を超える場合は33万円だけ)
  • 退職手当やその性質を有する債権は、その給付の4分の3に相当部分

退職金であっても、社会福祉施設職員等退職手当や共済法にもとづく退職金や中小企業退職金共済法にもとづく退職金などは差し押さえができません。

差押えの例外として、債権者の執行債権が扶養料請求権(婚姻費用・養育費・扶養料などの金銭債権)などの場合は、差押えを禁止される範囲が変更されます。

これは『民事執行法152条3項』の定めに因るもので、差押え禁止範囲が「4分の3相当部分」から「2分の1相当部分」へ縮減されるのです。

特別法上の差押禁止債権

個別の法律にもとづいて差押えが禁止されている債権や財産が、特別法で定める差押禁止債権です。

申立人が生活や福祉のために受給する公的な給付金は、以下に挙げるように個別法で差押えが禁止されています。

  • 国民年金や厚生年金などの各種年金を受け取る権利(国民年金法24条および厚生年金保険法41条)
  • 生活保護を受け取る権利(生活保護法58条)
  • 児童手当を受け取る権利(児童手当法15条)

また、国民年金・厚生年金・健康保険・生活保護給付金のように社会保障として受給する権利も、差押えの対象外とされています。

破産管財人が破産財団から放棄した財産

自己破産を申し立てる際には、破産手続き後の申立人の最低限度の生活を維持するための財産以外は没収され、破産財団に組み込まれます。

これらの財産の中には簡単に換価できる財産だけではなく、「処分に費用がかかり過ぎる」「買い手が見つからない」といった財産が含まれているのが一般的です。

たとえば、不便な場所にあって誰も買ってくれそうもない不動産や、一部の熱狂的なマニアしか興味を持たない商品などが含まれている可能性があります。

そうした財産については、破産管財人が裁判所の許可を得て破産財団から放棄し、申立人の自由財産に変更するのです。

このことで、破産管財人が破産財団から放棄した財産は本来的自由財産ではありませんが、自由財産として申立人の手元に残せます。

自由財産拡張が認められた財産

申立人の経済的更生のために必要と認められる財産については、裁判所の裁量によって自由財産として認められることがあり、これを「自由財産の拡張」といいます。

この「自由財産拡張が認められた財産」については、以降で詳細を紹介しましょう。

裁判所の裁量で自由財産が拡張される

自己破産する人の状況はさまざまですから、法律で定められた自由財産を手元に残しても、最低限の生活が困難な場合もあり得ることです。

そうした場合でも対応できるよう、裁判所は裁量によって自由財産の範囲を拡張し、法定の自由財産以外の財産についても自由財産と見なせるとされています。

裁判所の裁量によって残せる財産が増えるのですから、申立人にとってはうれしい運用ルールと言えるでしょう。

ここでは、この「自由財産の拡張」について解説します。

自由財産の拡張とは

自由財産の拡張は、『破産法34条4項』に定められた自由財産には含まれない財産で、破産手続き開始決定後1カ月以内の申立てまたは裁判所の職権で自由財産と見なされる財産です。

どのような財産を自由財産の拡張として認めるか認めないかといった統一的な基準は存在せず、裁判所によっても違いがあります。

自由財産の拡張の申立てを受けた裁判所は破産管財人に意見を聴き、申立人の生活に必要で不可欠な財産と判断すれば自由財産の拡張を認めるのが一般的です。

裁判所の裁量で決定するとは言え、どの裁判所においても、破産管財人の意見が重視されます。

なお、自由財産の拡張は、管財事件の場合に限り認められている制度で、同時廃止事件では認められていません。

どのような場合に自由財産の拡張が認められるのか

各裁判所は、一定の財産についてはあらかじめ自由財産の拡張を認める基準やケースを設定しています。

ここでは、東京地方裁判所における自由財産の拡張の基準やケースを紹介しておきましょう。

  • 残高(複数ある場合は合計額)が20万円未満の預貯金
  • 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円未満の生命保険解約返戻金
  • 査定額が20万円未満の自動車
  • 支給見込額の8分の1相当額が20万円未満の退職金債権
  • 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
  • 居住用家屋の敷金債権
  • 電話加入権
  • 家財道具

なお、裁判所が自由財産の拡張を認めるかどうかの原則的な基準は、「申立人の最低限度の生活に必要かどうか」です。

したがって、高齢で再加入が困難なため、解約返戻金のある保険を解約できない、などの事情がある場合や、生活のための必需品である車を持ち続けることなどが認められることがあります。

しかし、そうした事例が必ず認められるわけではなく、あくまでも本当に必要かどうかを精査したうえで裁判所が判断を下すのです。

自由財産拡張申立てのタイミング

自由財産の拡張は「申立人の申立てにより、または裁判所の職権」でなされると規定されています。

自由財産拡張の申立てができるのは管財事件の場合に限られており、同時廃止事件の手続きの場合は申立てできません。

管財事件において破産管財人による管財業務が開始されると、保険や預金通帳の解約などの処理は1カ月程度で終了してしまいます。

したがって、自由財産拡張の申立てについては自己破産の申立てを行う前に代理人の弁護士と調整しておき、自己破産の申立てと一緒に処理したいものです。

自由財産の拡張が認められた財産は申立人の手元に残せるので、しっかりと準備して申し立ててください。